息子は自閉症スペクトラム

2012年7月に誕生した息子りく(通称)。2014年4月(1歳9ヶ月)に自閉症スペクトラムの疑いが発覚。2016年3月(3歳8ヶ月)に自閉症スペクトラムの診断あり。療育は早ければ早い方がいい。身をもって体験中。

ママと呼ばれた日 林家パー子法

去年の5月ごろ、息子が1歳10ヶ月ごろに書いた文章です。

このブログのテンション!?とは違いますが、誰かの参考になればとおもいUPします。 

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「ママと呼ばれますか?」

 1歳後半になる息子は先月新しい保育園に入園した。冒頭の言葉は登園二日目にベテラン保育士から聞かれた言葉だ。言葉はいくつかしゃべれる。それなのに「ママ」と呼ばれたことがない。うろたえながら首を振る。「そうですか⋯⋯」保育士は深刻そうに考え込んでいた。

 後日、子どもの発達支援を仕事にしている友人が偶然遊びにきた。息子を観察すると「人より物への興味が強いです。何らかの発達教育(療育)をしたほうよいですね。」とアドバイスしてくれた。

 同世代の子が、皆「ママ、ママ」と呼んでいる中、息子は無言で駆け寄ってくる日もあれば、おもちゃで遊び続けるときもある。なるほど、息子には人と違った”癖”がありそうだ。息子は物への興味が強い分、視線が人に向かない。人の動作や顔の表情、口の動きなどの情報が欠落しているため、言葉を覚えるのがゆっくりだったり、名前を呼ぶと振り返ってもらえるなどの動作の学習が弱い。小さな窓から世界を眺めているようだ。

 今一番されたいことは「息子から「ママ」と呼ばれること」。未知の場所や人に出会って刺激をうけるよりも今の私には一番わくわくし感動することだ。まずは、書物を読みあさる。

 行動分析学という学問がある。「人は行動をした結果によって、次の行動を決める」という考え方だ。例えば、すぐに弱音を吐く会社員のタカシさん。弱音を吐くと、同僚や上司にやさしくしてもらえたり、仕事を減らしてもらえたという良い結果が得られた経験から、彼はまた弱音を吐くという行動にでる。ーー(『メリットの法則』奥田健次著集英社新書より要約)この学問が息子の症状に効くということがわかった。

 

 まずは「ママ」と言えるよう訓練開始。オウム返しで言葉を話せるようになっている息子に対して、「ママ」と私が何度か言い真似をさせる。言えたら、喜びハグする。つまり「ママ」と言えたら、喜ばれ抱きしめてもらえるという"よい結果"を与えるのだ。この教育法で大事なことは、ある行動をしたら必ずメリットを与えないといけないことだ。メリットが十中八九もらえても定着しない。「ママ」と何度も言わせ、私は抱きしめた。息子は「ママ」と言ったら喜んでもらえることを学習し、頻繁に「ママ」と言うようになった。

 

 次は「ママ」と呼びとめる練習だ。つまり、「ママ」と言うと、母親が振り返るという一連の動作を理解できるようにするのだ。私は息子に背をむけ「ママは?」と言い、息子に「ママ」と言わせる。そして振り返り、大げさに喜び駆け寄るといった動作を繰り返してみることにした。息子を背にして「ママは?」と聞いてみる。返事がない。後ろを振り向くと周辺にあったプラレールで遊んでいる。がっくり。ならば動けないように椅子に座らせ、息子を背にして「ママは?」と問いかけた。息子はすぐに「ママ」という。私は振り向き満面の笑みを返した。息子は違う方向を見ている。息子の注目を集めるには、TVドラマや小劇場レベルの繊細な表情を使い分ける演技派ではダメなようだ。1つの感動巨編をみたアメリカ人なみにスタンディングオベーションをし、息子に抱きついた。息子も笑みを返す。メリットを理解したようだ。私は距離をひろげ、再度繰り返す。

 

 何度も繰り返しているうちにコツを掴んだ。それは、林家パー子法。彼女のように高音できゃっきゃっと言いながら拍手をして笑うと、息子は大笑いする。「さしてすごくないこと」に気持ちをこめて喜ぶことは毎回は疲れる。林家パー子は「さして面白くもない」ことを、気持ちをこめずに大笑いしている風を装っている(ように私は感じる)。それと同様、気持ちをこめなくても息子には喜んでいるように受け取ってもらえる。林家パー子は疲れないためにこの笑い方を編み出したのかもしれない。

 

 この方法が功を奏してか、感動の瞬間は突然訪れた。この練習を繰り返した翌日、息子の前を横切ったら、息子が「ママ」と呼び止めた。「キターーーー」と織田裕二なみに心の中で叫びながら、振り返り息子にキスをする。この時ばかりは林家パー子法は不要で、全身で喜びを表現した。ママと呼ばれた!苦労した分、喜びも倍増だ。出来ない子ほどかわいいというのはこういうことか。全世界の人に「息子がママと呼びました〜!!」と叫びたくなるくらいテンションがあがる。

 

 さてさて、今息子は、馬鹿の1つ覚えみたいに「ママ、ママ、ママ」と連呼している。前述のとおり行動分析法は100発100中メリットを与え続けないといけない。ママと呼ぶたびに、テンション高く「わーい」と喜ぶ。定着したと判断したら、辞めてもいいのだろうが、その判断をくだせずにいる。街中(まちなか)で子どもから「ママ」と呼ばれ、テンション高く喜ぶ親ばかを見かけたとしたら、それは私に違いない。